幸福について
人生は旅のようなものだと思う。喜びを目的とする旅である。幸福を目指すのでもいい。
では幸福とは一体どんなものをいうのか。幸せって何なのでしょうねと先日、知人の会計士さんから問われて、そういえばショーペンハウアーが教えてくれたなあと鮮やかに思い出した。
以下、私自身のための覚書である。
(アルトゥール・ショーペンハウアー「幸福について」より)
- 苦痛のない状態にあって、しかも退屈がなければ、大体において地上の幸福を達成したものとみてよい。それ以外はすべて架空だからだ。
- 最も幸福な運勢の人は、精神的にも肉体的にもそう極端に激しい苦痛を知らずに一生を過ごす人であって、最大級の激しい喜びや大きな享楽を授けられた人ではない。
- 一生の総決算を幸福論的な見方に立って引き出そうとする場合、自分の享楽した喜びによって勘定を立てるべきでなく、逃れた災厄によって勘定を立てるべきである。
- もとより人生は本来、楽しむべきものでなく、克服し始末をつけるべきものなのである。
- この世をいわば地獄と思い、この地獄のなかに業火に耐える一室を築くことに専念する人の方が、はるかに迷いの少ない人だと言える。
旅を楽しむための(あるいは投資で笑うための)情報収集のこと
- なぜ旅をするのかといえば、何ごとかを学ぶためにである。
- 書物を通じて学ぶのも良いのだが、できるならば世界を直接読み解くような学び方が好ましい。
- 自身の体を通じて世界をありのままに理解したいものだと思う(これができれば投資で利益を得るのも容易となろう)。
- 旅先で学びたいのなら予備知識はむしろ邪魔になるという人もいるが、僕の場合はそうではない。知識ゼロで新たな地を訪れれば、たとえ何かを目にしても何も見えない状態となってしまうだろう。知識がなければ視界に入ったところで知覚できないものである。
ユダヤ人犠牲者記念館の記念碑(ベルリン, 2017年6月)
- 旅を楽しむためには予備知識がやはり必要である。ここで活躍するのが書物だ。その地の歴史、地理、文化、言語について机上で知識を仕入れた上で実際に訪れる。本で読んだことその通りだった、などということは一度もなかった。本に記された文章では表現しきれないものが無数にあって、それが驚きや喜びをもたらしてくれる。
ミフラーブ(ベルリン, ペルガモン博物館, 2017年)
- 旅行ガイドブックは貴重な情報源なので、毎回買っている。様々な種類のガイドブックを使ってきたが、ダイヤモンド社の「地球の歩き方」は今でも重宝している。とはいえ、地域によって執筆者は異なるようで(当然だろうが)、上質と感じるかどうかはその国、地域によって異なる。
- 今年のオランダ、ドイツにはいずれも地球の歩き方を持参した。昨年の香港、台湾もそうした。ただ、2年前に訪れたトルコ(イスタンブル)では昭文社のトラベルデイズを選んだ。 ※イスタンブル http://amzn.to/2vN4Dlp
ボスフォラス海峡(トルコ, 2015年9月)
- これらのガイドブックにも当地の歴史、文化についての記述はあってよくできたものだと感心するのだが、もっと突っ込んだ内容を知りたいと近年強く思うようになった。
- いろいろと探した末に、これはと思えるものを見つけた。明石書店のエリア スタディーズ「~を知るための〇章」シリーズである。現地駐在経験者や研究者が執筆している。今回は、オランダを知るための60章(長坂寿久著) http://amzn.to/2uonovU 、現代ドイツを知るための62章(浜本隆志・髙橋憲編著)、アラブ首長国連邦を知るための60章(細井長編著)、現代アラブを知るための56章(松本弘編著)を持参した。
ミュージアム広場の "I amsterdam" サイン(アムステルダム, 2017年)
- なかでも印象に残ったのは「オランダを知るための~」である。まえがきに「この本は私自身のためのオランダガイドブックとしてつくったものです」とある。著者のアムステルダム駐在時代に書いた記事が基となり、こつこつ調べ、まとめていった結果この本になったのだと。こういう本が面白くないわけがないと思って読んだ(実際面白かった)。笑ったのがヨーロッパ各国の広告戦略の違いについてである。たとえばかなづち(ハンマー)を売るに当たって、各国のマーケターは次のような広告を打つ(ステレオタイプ):
英国:「王室御用達ハンマー」"七百年変わらず"
ドイツ:「ドイツ・ハンマー研究所認定」"ドイツのハンマー科学者がデザイン"
フランス:「すばらしきハンマー」"パリのマキシムがカトリーヌ・ドヌーヴのためにつくった"(ポートレート入り)
イタリア:「アモーレ(愛)のハンマー」"女性には抗いがたい"(かなづちの後ろにヌードの女性)
スウェーデン:「くぎを傷めない」"環境に安全で社会的に進歩的なスウェーデンのハンマー"
オランダ「オランダの経済的ハンマー」"半額、組み立て式"
[Richard Hill, We Europeans, Europublic sa/nv, 1992] (オランダを知るための60章 http://amzn.to/2uonovU
p30)
- 外国語関連では、ニューエクスプレス シリーズも重宝する。マニアックな言語の参考書をと探せばたいていここがヒットするのだ。今回はアラビア語とオランダ語を持参した。とはいえアラビア語はアッサラーム アレイクム、ワ アレイクムァッサラームしか話せない。
シェイク ザーイド モスク(アブダビ, 2017年)
- ふくろうの本、図説シリーズも良かった。図説オランダの歴史 http://amzn.to/2gTR1lS 図説ドイツの歴史 http://amzn.to/2uonljF 、図説ベルリン http://amzn.to/2uLRnRe これら三冊を買ったのだが全部持っていくにはあまりにも重く、ベルリンのみ持参した。そしてこれがたいへん役に立った。
6月17日通りの戦勝記念塔 ジーゲスゾイレ(ベルリン, 2017年)
- 物語オランダ人(倉部誠著) http://amzn.to/2uoFwWy もたいへん興味深く読んだ。これだけ読むとオランダ人は皆人格破綻者か何かなのではないかと思える。
- アラブ的思考様式(牧野信也著)も非常に良かった。アラブ人の極端に振れやすい性格は、アラビア語に起因しているという説。私自身、研究したいテーマである。そしてこの本のなかで紹介されていた アラブ人とは何か(サニア ハマディ著)も手に入れて読んだのだが、ちょっとアラブの男に近づくのが怖くなった。
- 本は重い。知識の重みである。あれもこれもと詰め込んでいくうちに、スーツケースの重量はとんでもないことになってしまう。旅に出て腰をいためるというのも本末転倒なので泣く泣く取捨選択することになる。
夜のブルーモスク(イスタンブル, 2015年)
- 旅先から帰って来て後に買う本も多い。旅先でいつも痛感するのは己の知識のなさである。
- ヨーロッパやイスラム世界を訪れると、宗教について考えさせられることが多い。今回、帰国してからは ユダヤ教(小滝透著) http://amzn.to/2uo9Ct4 、虐殺の歴史(小滝透著)、アメリカの正義病・イスラムの原理病(岸田秀・小滝透著)を買った。これを書いていて思ったのだが、イスラエルを訪れる日も近いような気がする。
- ついでながら帰国後、「自宅で30分でできるダンベルトレーニング」(有賀誠司著)と、10キロのダンベルふたつを買った。ホテルのジムでいくつか使ってみて妙にしっくりきたのだ。いまのところ、今年買って良かったものベストがこれである。
今年のベスト アイテム(7月現在)
ケルン旅行記 [4] ケルンですれちがった老夫婦のこと
- ケルンの宿は財布にやさしいホテルを選んだ(とはいえ人気の宿だったのでキャンセル待ちの末、ようやく取れた)。
酒場の多い広場に面しているのでにぎやか(というか騒々しい)
- ドイツのホテルのエレベーターは、カードキーをセンサーにかざして初めてフロアボタンを押せる仕様になっている。夕方、ホテルに帰ってきてエレベーターに乗ろうとすると、今チェックインしたばかりと思しき老夫婦がエレベーターのなかで、ボタンを押しても反応しないと困っている様子だった。
- ここにカードをかざすと押せますよと教えて差し上げた。老紳士は、ありがとう、このホテルは初めてなんだ、といった。老婦人は、助かったわ、そもそもホテルに泊まることなんてめったになくて、といった。
- 素朴で善良なドイツ人夫婦といったふたりだった。メルケル首相の第一の仕事は、こういう人たちをまもることなのだろうなと思った。
- なぜか印象に残った場面だったので書いておく。
アブダビ旅行記 [16] カタール危機と詩的なアラビア語のこと
- 日本を発つ直前のタイミングでアラブ諸国がカタールと断交した。空路も遮断されたと聞いて驚いた。
- 今回の旅行にはエティハド航空を利用したのだが、最終的にカタール航空との二択で決めた。オランダやドイツとの空路に影響はないので、いずれを選んでも旅程に変更はなかっただろうが、仮にドーハでトランジットをするとなれば、多少の混乱は覚悟しなければならなかった。
- アブダビで手に入れた新聞ではいずれも連日、カタール外交危機の見出しがトップにあった。
- サウジ、UAE、エジプト、バーレーンはカタールが現実的に受け入れ不可能な13の要求を突きつけ、あとはそちらの回答次第だと突き放したとか、そもそも無知で単純な米国大統領の軽率な発言が発端だったとか報じられているが、この辺りの事情は複雑すぎて正直よくわからない。
- ところで、UAEの英字紙Khaleej Times(直訳すれば「半島新聞」。UAEで最も歴史のある新聞)のトップ記事は、ドバイの皇太子がカタールに詩で呼びかけた(インスタグラムで)というものであった。
Poem (c) Khaleej Times
- ポエムとは場違いな単語だと一瞬思ったが、そういえばアラブでは古来、詩が重要な役割を果たしてきたのだとどこかで読んだ。
- アラビア語は詩的要素を多分に含む言語であって、ふるくは部族間の戦でも詩が大きな、ときに決定的な影響力を持った。戦ではまず、それぞれの代表詩人による詩の掛け合いが行われ、優劣を競ったのだそうだ。その結果で勝敗の大勢が決まったという。アラブの言霊である。
- アラビア語の音楽的な響きに陶酔してしまうのがアラブ人であり、それゆえか彼らは論理的思考が不得手である、という話も複数の本で読んだ。たしかに日に数度流れるアザーンは音楽的である。
- 僕はアザーンの響きが好きなので、こちらに住む人に、アザーンは音楽的で趣がありますよね、といったところ鼻で笑われた。毎日聞かされる身にもなってみろ、ということらしい。
アブダビ旅行記 [15] シャングリ ラ ホテルの人々のこと
- アブダビ最終日、朝食を済ませて部屋に戻ってくると電話のメッセージランプが点滅していた。メッセージに従い折り返し電話をすると、何やらスペシャル デリバリーの用意があるという。ハッピー バースデーともいわれた。
- この日は家内の誕生日だった。パスポートに記された情報から手配してくれたらしい。
- 電話をしてから一時間弱待った。ありがたいのだがうまく伝わらなかったのかなと、やきもきしなかったといえば嘘になる。どうやらその場でいちからつくってくれたらしい。お届けはいつがよろしいかと問われて、今すぐがいいと応えてしまい、僕の不慣れを露呈してしまった。
- 届けてもらったケーキには、ハッピー バースデーとチョコで記されていた。ホテル側が誕生日にサプライズでケーキを届けてくれるとは、この日まで都市伝説なんじゃないの思っていた。本当にあるのだ。
都市伝説ではなかった
- そして帰国するその日、お言葉に甘えてレイトチェックアウト時刻18時までホテルで過ごした。荷物をまとめ、スーツケースは部屋に置いたまま、ラウンジへ上がった。スタッフさんに声をかけ、チェックアウトはそのままラウンジのテーブルで行う。滑らかなものである。荷物は他のスタッフが部屋から直接フロントまで持っていってくれる。我々にはそのままラウンジで、好きなようにお過ごしくださいという。
- チェックアウトの時刻は過ぎているのに、ここでこうしてビールとか飲んでいていいものか、などと考えるのは僕の未熟さゆえか。それどころか、ハイネケンのお代わりはどうか、昨晩飲んでいたシーバスはどうかなどと、何度も訊いてくれる。旅に出ると勉強になることばかりである。
- しばらくして後、ありがとうと声をかけ、ラウンジを出た。すると何かと世話になった女性スタッフが家内に日本語で書いた手紙を渡し、若いシェフまで出てきて「神のご加護がありますように」(原文ママ・日本語)と帰国する我々を祝福してくれた。
- この若いシェフはフィリピン出身の22歳で腕も良く、アラビア語よりも日本語の勉強に一所懸命の好青年であった。いまの日本人は絶対使わないだろうというような立派な日本語を話す。「ありがとうございます、心から」とか。
- その後、ラウンジ スタッフの彼女にはタクシーに乗り込むまで見送りを受けた。彼女はしっかりとした良い人である。しかし、これはビジネスでやっているのだ、仕事なのだと、僕はくり返し自分に言い聞かせた。それでも感動を覚えてしまうのだ。大したものである。そもそもこのホテルはどうやってこういう人々を雇ったのだろう?それが知りたい。社員教育とか動機付けとか、そんなものが問題ではないと感じる。大切なのは誇りか。
アブダビ旅行記 [14] 外国人が支えるUAE経済のこと
- UAE(アラブ首長国連邦)の国籍を持つ人々をエミラティと呼ぶ。エミラティの全人口に占める割合は13%に過ぎない。人口の大部分を占める外国人がUAE経済を支える構造である。
- ホテルで何やかやとお世話になったラウンジ スタッフは韓国籍の女性だった。ラウンジの若いシェフはフィリピンの、レストランでサーブしてくれたウェイターはネパールの国籍を持つ人々だった。特にこちらから尋ねたわけではないのだが、各人が教えてくれた。
- UAE政府は外資に対し一定割合の自国民(エミラティ)雇用義務を課している。福祉が充実しているUAE国民は勤労意欲が旺盛とはいえないようで、実務能力は外国人が勝る一方で、エミラティの給与水準は高く、経営者からすれば頭痛の種でもある様子。
グランド モスク スタッフの方たち
- ホテルにチェックインしたのは朝といって差し支えない時間帯だったのだが、ホテル スタッフの皆さんがアラブのコーヒーとデーツを手にわらわらと出迎えてくれて、ヨウコソイラシャイマシタとか、コニチワ、アリガトゴザイマスなどと、対応をしてくれてなんと友好的な、と驚いた。そういえば、UAEの石油・天然ガス輸出先のトップは日本である。フロントの女性のみ欧米系で、日本人にフレンドリーなベルボーイ連は皆アジア系であった。
ホテルに隣接するスーク(市場)の入口 ※金曜だったのでほとんどが休み
アブダビ旅行記 [13] リムジントランスファーの特典を誤解したこと
- アブダビのシャングリ ラはBooking.com経由で予約した。クラブルーム宿泊客には空港からホテルまでのリムジントランスファーが特典として付くという。それはありがたい。別途予約が必要というので、出国前に予約したい旨のメールを送った。
感動を覚えるレベルのホテルであった
- すぐに返事が来た。アラブ世界の人々は神の御心のままにを大義として対応がスローなのではないかとの先入観があったのだがそれは誤解であった。
- 返ってきたメールには、喜んでお迎えするが料金は250ディルハム(約7,800円)である、よろしいか、とあった。特典とは無料を意味するのではないのか。日本語の説明文を読めばそうとしか解釈できない。しばし頭を抱えた。
- そういえばBooking.comはオランダの会社である。英文表示に切り替えて改めて読んだ。すると、「あなたのホテルまでの到着をfacilitateする」とある。”facilitate” の意味は何だったか?「容易にする」だ。なるほど、ホテルにたどり着くことは容易にするが、無料でとは書いていないのだ。
アムステルダムのレンブラント広場で見かけたBooking.comのオフィス
- ホテルの担当者に出迎えてもらうのもたいへん結構なのだが、現地でタクシーを拾った方がずっと財布にやさしそうだったので、キャンセルとさせてもらった。原文に当たらなかったがために図々しいメールを送ってしまったかもしれない。反省である。