アムステルダム旅行記 [8] オランダ商人の押し出しのこと
- 運河に面した建物には間口税と呼ばれる税金が課された(16世紀)。当時のアムステルダム市民は間口を極力狭めて、奥行きを広くとった。スペースがありさえすれば、間口のみ狭く、奥は広くといった家屋設計とした。節税対策である。
- 一方、富裕な商人は必要以上に間口を広くとることもした。己の財力の誇示であり、商人としての押し出しであろう。窓は上部ほど小さく造られている。遠近法で実際よりも高く見えるようにだそうだ。
- 間口が狭いので家具の出し入れには工夫が要る。引越時には窓から直接搬入するのだ。建物の上部に鉤が取り付けられており、ロープを使い、吊り下げて家具の出し入れ行う。
鉤付き
- アムステルダムは砂地であるため、古い建物のなかには傾いてしまっているものもある。しかし現在も普通に住居として使われているもようである。
- よく見ると道側にも傾いている。地盤がやわらかいとたいへんだ、と思っていたら、家具の出し入れの際に外壁に傷がつかないよう、あえてオーバーハング状のつくりとしているのだという。
傾いている
アムステルダム旅行記 [7] 運河のこと
アムステルダム旅行記 [4] レンブラントの夜警のこと
- 現存するフェルメールの作品は多くはなく、彼の作品か疑われているものを含めても四〇点に満たない。これらのうち四点が、ここアムステルダムにある。
- そのはずなのだが、いくら探しても三点しか見当たらない。「恋文」と題された画がどこにもない。インフォメーション カウンターの女性に訊ねると、現在貸し出し中とのことであった。今はダブリンにあり(2017年9月まで)、次はワシントンD.C.へ向かう予定なのだという。アムステルダムに戻ってくるのは早くとも2018年11月になる。
- こういうことは事前に告知しておいてほしいものだが、なかなかわからない。実際に足を運んで初めて、そこにあるはずの画がないないというのはよくある話である。
- できることなら避けたい事態である。しかしどうしようもないので、またこの都市を訪れる理由ができたと前向きにとらえることにした。
- フェルメールもいいのだが、それ以上に僕はレンブラントが好みである。美術の素養などまるでなかった自分であるが、十四年前ロンドンで英国王室所蔵というレンブラントの作品を観たとき、世の中にはすごい画があるものだと驚いたのだ。
- なかでも今回観ることのできた「夜警」の解説が興味深かった。
美術館内。奥に「夜警」。
- 暗い背景から夜警と題されたが、描かれているのは日中の自警団の様子である(タイトルは画家が付けたものではない)。
- 集団の中にベレー帽をかぶった男が片目だけ覗かせているが、その人物がレンブラント自身である。
レンブラント本人(中央・片目のみ)
- レンブラントが受注したのは火縄銃手組合からの集団肖像画であるが、画中の人物の扱いに軽重があり、光の当てられた人物がいる一方で、影のなかに沈んだままの人物もいる。レンブラントはそれ以前の表現手法と異なり、集団肖像画の中に動きやストーリー性を持たせた。
- この画の代金は払ってもらえたのだが、画中で軽く扱われた組合員の不興を買い、これ以後その組合からレンブラントに発注されることはなかった。
- 1975年にUnbalancedな男によってナイフで傷をつけられたことがある。 ”Unbalanced”とはどういう意味だろう?画の近くでよろめいて、たまたま手に持っていたナイフで傷つけてしまったとかだろうかと解説文を読んだときは思ったが、精神が不安定な男が切り付けたということらしい。
- ところで当美術館には、この画にはいくらの値がつけられるかという問い合わせがよくあるが、価格など付けられたものではない。そもそもこの画は売りものではないのだ!とのこと。
アムステルダム旅行記 [3] 今そこにある危機について
- 今回のアムステルダムへの滞在中、宿にはヒルトン ダブル ツリーを押さえた。アムステルダム中央駅から歩いて5分かからない立地で、電車利用にも便利である。何より朝食のおいしいところ(朝食の評価が高いところ)という点に重きを置いて選んだ。実際食べてみれば評判通りに上質で大正解であった。また、ストリートビューで駅からの道を確認することも容易で安心感があった。
おいしいホテル
- 日本を発つ直前にアムステルダム中央駅のすぐ前で車の暴走があり、8人が重軽傷を負ったというニュースをCNNで見た。軽く緊張感を覚えたが、どうやら過失によるものでありテロリストによる犯行ではないもようである。
アムステルダム中央駅(東京駅のモデルになった)
- 自動車を凶器として用いたテロ行為が最近目立つので海外渡航時には注意が必要であると、外務省からの注意喚起もあった。もちろんその通りなのだが、多くのものは不満を募らせた個人が政治目的などなく、無差別大量殺人を企てて実行に移し、それをテロリスト集団がうちの構成員の仕業だと後追いで犯行声明を出しているようにも見える。
- ところで2015年の秋、トルコのイスタンブルを訪れたが、出国直後に首都アンカラで爆弾テロがあった。その翌年にはイスタンブルの新市街と旧市街で爆弾テロがあった。
- 今回、アブダビへ向かう飛行機で隣り合わせた年配の男性は、これから一人でイスタンブルへ行くのだ、黒海まで足を延ばしたいと楽しそうであった。テロの危険性についてどう思うかとさりげなく水を向けたところ、そんなことを気にしていたらどこにも行けないだろうと、気にした風でもなかった。
- 数日前、アムステルダムの国立美術館で知り合った南アフリカ出身で今はイギリスへ留学中という青年は、テロに対して恐れを以て応じるのはあやまりで、日常生活をこれまで通りに続けることが大切なのだと語ってくれて、その通りだなと学ばされた。テロ行為をむやみに恐れることはテロリスト集団を益することにつながる。
- また現実問題として、テロに遭遇することよりも交通事故に遭う確率の方がどうやら高い。紛争地帯や治安の極端に悪い地域へ興味本位で近づくのは論外であるが、そういうのでなければ交通事故こそ警戒すべき最もリスクの高い事象だろうと考えて過ごしている。
アムステルダム旅行記 [2] オランダのマリファナ事情について
- オランダでもマリファナ(大麻)は合法ではない。ただし一定量までの個人的使用ならば(違法だが)法は執行されない。厳格な禁止は非現実的であり、それよりも制御した方が良いという考えに基づく。オランダが麻薬の輸出入に深く関わってきた歴史的経緯もある。観光資源であり税収源であるという現実もある。
- コーヒーショップ(Coffeeshop)の看板が掲げられた店では個人向けにマリファナが提供される。コーヒーショップの営業許認可の権限は地方自治体が持つ。すべてのコーヒーショップを閉鎖した自治体、コーヒーショップゼロ政策を掲げる自治体もある。
- オランダに着いたその日、アムステルダム中央駅を出てすぐにこれまで経験したことのないにおいを嗅いだ。これがマリファナのにおいか、臭いという声も聞いたが我慢ならないほどではない、とこのときは思った。
- 街を歩いているとそこかしこでこのにおいを嗅ぐことになる。国立美術館には午前の早い時間帯に訪れたのだが、そこでもマリファナのにおいをぷんぷん漂わせている人と複数回すれ違った。
街中にあるマリファナ取扱店。コーヒーショップを併設。
- たしかに独特のにおいなのである。日に何度も嗅いでいると、ちょっとこのにおい生理的に受け付けないなと思うようになった。
- マリファナ喫煙は脳構造に恒常的な変化を及ぼすという研究報告もある。これは怖い。依存性が低いのでアルコールよりも害は少ないという話もあるがそれは論理のすり替えではなかろうか。僕はパスすることとした。